某月某日、アッシュの日誌 #5 : 日誌
アッシュ  (投稿時キャラデータ) 風神 2019-05-20

また彼と一緒の依頼だった。
前回は個人的に受けた依頼に僕が引き込んだが、今回はマリアンデールの要請で召集された結果だ。
今や張り出される依頼を虎視眈々と狙っていた駆け出しの頃が懐かしい。僕も随分と優雅な身分になったものだ。
英雄……と称されることにまだ慣れない部分もあるが、そう目されることへの重みを忘れてはならないのだろうな。
彼はそうした周囲の視線など気にした風でもない、初めて見知ったときそのままの態度だったけれど。

ここ最近頻発していた小規模地震に揺られる中で告げられたのは、とある鉱山を占拠したダークドワーフの一団の調査だった。
調査といっても相手が実質的に蛮族である以上、その手段は概ね強行なものとなることは明白だ。
事実、赴いた先の鉱山村には死傷者を含む被害が見受けられ、この時点でおよそ和解はありえないことも確定していた。
幸いにして占拠された鉱山に取り残された村人もおらず、要救助の手間を介さずに殲滅戦へと状況は推移し、僕達は鉱山内部へと踏み入った。

長年掘り進められてきただけあって中は暗く、入り組んでいた。
僕もシェンナもそれなりの心得はあったけれどやはり勝手がわからず、二人して同じ方向を向いて迷いかけたのはご愛嬌だろう。
ランやレオルトがいて助かった。特にランの探索技術は見事という他に無く、あの憎まれ口も愛嬌として流せるほどに優れていた。
無論彼女に頼り切りというわけじゃない。僕達も不得意ながら最大限の注意を払っていた。
時折奔る小刻みな震動は崩落の可能性を如実に示していたし、ところどころかけられた吊橋の不安定さも、警戒を途切れさせることを許さなかった。
僕達は――――僕は細心の注意を払っていたつもりだった。

とある開けた空間に踏み入ったとき、それを嘲笑うかのようにそれまでで最大の揺れが襲った。
それは僕達のちゃちな警戒心など歯牙にもかけず坑道全域を駆け抜け、退路を塞ぐようにここまでの進路を盛大に崩落させた。
そしてそれだけに留まらず、僕達の頭上をも崩落せしめ……気付けば僕は、わけもわからないまま地に伏せていた。
何のことはない、たまたま岩塊が僕の方へと落下してきて、間抜けな僕はそれの直撃をもらったようだった。
痛烈な一撃をもらったことを倒れてから理解した僕は、その時改めて今日まで肉体を鍛え上げてきたこれまでの自分に感謝した。
それほどの一撃だった。常人であれば三度は死んでいただろう重傷を、僕の身体は持ち堪えてくれていた。

……だけど、そのときに最も印象深く覚えていたのは、その重傷の痛みではなかった。
意識が朦朧とした数秒の間際に聴こえた、僕の名前を呼ぶ彼シェンナの声。
常らしくもない大声を張り上げて、今までは「おい」だの「貴様」だのとぶっきらぼうな呼び方しかしてこなかった彼が、初めて僕の名を呼び、心配してくれていた。
その思いがけない光景こそが僕の脳裏に焼き付いていて、傷の痛みなどどこかへと置き去ってしまっていた。
彼の中で僕という存在が認められていた喜びの前に、この傷の痛み程度をどうして意に介していられるだろう。
見返りを求めて彼を気にかけていたわけではないけれど、それでも確かに縁が結べていたことを実感できて、僕は却って発奮した。

幸いにして依頼に同行する仲間は皆頼りになる者ばかりで、僕の傷もルアンベの魔法のおかげで後遺症も無くすぐに回復した。
それを確認したシェンナは、またすぐいつもどおりの仏頂面に戻っていたけれど、先に見せたあの表情と声を知った今では、まるで表情豊かに見えてしまうのだから不思議なものだ。



だから……その直後にうっかり滑落してしまったときの表情の意図もよくわかったよ。
見るからに呆れ返っていたな。だけどそれは……違うんだ。だからそんな眼で見ないでくれ。
流石に居た堪れなくて、顔から火が出そうだ。

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