今回は所謂リベンジ戦だった。
過去に依頼を失敗したことが無いわけではない。
敗退、逃走の負い目など両手の指では足りない程度には経験もしている。
だが、一度敗北を喫した相手に再び挑む機会を得ることは、そう多くはない。
まして依頼を共にするメンバーが前回と同様の面子に加え、レオルトまでも配置されたのだから、まさに至れりつくせりだろう。
巷に英雄として馳せるに至った今日ならではの厚遇と言うべきか。だからこそさらなる失敗は許されず、必ずや依頼を完遂させてみせるという意気に僕は満ち満ちていた。
前回の依頼で野放しにせざるを得なかった例の魔神は、無数の眷属を引き連れ遺跡から移らんとしていた。
無数の下位星の冒険者を陽動に配し、敵の中核を討つ浸透強襲部隊として作戦に臨んだ僕達は、味方の助けもあって無事魔神のもとへ辿り着いた。
以前は手数と火力が足りず敗北を喫した因縁の相手。しかし敵の性質を既に把握し、レオルトという一点突破の攻め手を加えた僕達は、前回の敗退や苦戦の想定が嘘のように、至極順調に討伐を果たせた。
一度死して尚蘇る生存能力の高さすら、万全の用意を整えた僕達にとっては何ら障害ではなく、僕達はかつての雪辱を果たすことができた。
屈辱を晴らせたがゆえの達成感は、きっと僕だけのものではないだろう。
誰もが皆前と同じ轍を踏むまいと奮起し、魔神の討伐に燃えていた。
それは期待された火力要員としてのレオルトもそうだったが、なによりシェンナの攻勢が一際荒ぶっていた。
全霊の力を込めた必殺の一撃。レオルトの連撃とは対照的に、幾度となく繰り返される一撃の全てが、およそ尋常の生物であるなら一刀のもと屠っていただろう大打撃だった。
以前は千日手による焦りか、はたまた単に運に恵まれなかっただけか、意気だけが先行して空回りする場面も目立っていた彼だったが、今回はその意志と動きとが一致してレオルトに勝るとも劣らない戦果を挙げていた。
正直、戦士として嫉妬すら覚えるほどだった。
長年の経験から生存率を重視して防備を固めた僕には無い、殺戮者としての戦意がひたすらに羨ましく思えた。
それは単に方向性の違いで、そこに優劣は無いことなど理屈では理解していても、戦士としての感情が羨望を抱かせていた。
普段は年若い同族の後輩として、どこか上の目線から接していた節が否めなかったけれど、いい加減そうした驕りは捨て去るべきなのだろう。
少し名残惜しい想いはあるが、彼もまた同格の戦士であることを念頭に置いて、相応しい敬意を払っていかなければ。
……ひょっとしたら僕は、こうして肩を並べることのできる同族の戦士を求めていたのかもしれない。
冒険者に身を窶す同族は多いが、僕と同じ領域に至るまで生き延びた者は少ない。
あるいは至るまでの間に別の幸福を見つけ、戦いを捨てる者も決して少なくはなかった。
そうした同族達を見送りながら、しかし同様の道を歩むことができなかった僕にとって、彼という存在はあまりに代え難い。
だからこそ、僕の目が届く限りは、彼を死なせることのないよう全霊を尽くそう。
これは先達としての導きではない。
肩を並べる戦士としての、果たすべき誇りだと。……僕はそう思いたい。
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