さて、冒険者になって色々なことがあった。
楽しい依頼も、時にはつらい依頼も、……なんかよくわからない変な依頼もあった。
思ったよりも世の中には不思議なことが多いのかもしれない。特に人参。
友人も多くできて、色々な景色を見て、色々な食べ物を作って。
笑って、泣いて、色々な事を話したり、酒を飲み交わしたり、時には喧嘩したり。
だが総合するととても楽しい冒険者生活だった。
俺は冒険者になって正解だったと思う。
そして冒険者仲間……いや、妹だったアイリスと結婚して、イレイナという娘までできた。
元気なナイトメアの女の子だ。幸いにもアイリスは仲間たちの奮闘もあって命は助かった。
……無事だったからよかったものの、もしイレイナがアイリスの命を奪ってたら……俺はこの子を愛せたのだろうか?正直分からない。
……いや、アイリスは無事なんだ。イレイナが大切な愛娘なのも本当だ。
もしかしたらを考えるのはやめよう。
前置きが長くなったな。
今正直悩んでることがある。
俺自身がプレミアム商会に戻るか……それとも自由に生きるかだ。
自由に生きるならば、冒険者を止めたとしてもそこそこの職にありつけるはずだ。
これでも料理にも酒の知識にも自信はある。
開業をしてもいいし、冒険者時代の伝手で就職してもいい。
普通の、そこそこの家庭を築けるだろう。
……少なくとも俺が生きている間ならば。
父からはプレミアム商会を継ぐならば、22になるまでには結論を出してほしいと言われて家を出た。
だから今すぐに戻るといえば、父は喜んでくれるだろう。
少なくともお金で困ることはない。これでもハルシカ商協国の中でもトップクラスの大富豪だ。
アイリスにも、イレイナにも楽をさせてあげられるのは間違いない。
……特に俺の寿命は長くても後6、70年。寿命のないナイトメアの二人はこれからも生きていくだろう。
俺が死んだあと、二人はまともに生きていけるのだろうか?
運よく俺の仲間たちはみな生きている。だが志半ばで死んでいった冒険者もいる。死ぬよりひどい目にあったといううわさも聞いた。
冒険者は非常に危険だ、いつか命を落とすだろう。おそらくずっと続けているならばいつかは――。
正直アイリスにはいつかは冒険者をやめてほしいと思ってる。そして、そんな危険な冒険者にイレイナをしたくない。
だがきっと世の中はそれを許さない。60年後、世の中のナイトメア差別は残ってる。
もしイレイナが冒険者にならなかったとしたら、どうやって生きていくのだろうか?
二人が冒険者以外ならば……どんな職に就けるというのだろうか。
アイリスは鍛冶師の伝手があると聞いた。もしかしたらそこで大成できるかもしれない。
だが……イレイナは……?
まともな職に就けず、スラムに身を落とすかもしれない。もしかしたら身体で稼ぐことになるかもしれない。
……ナイトメアには居場所が必要だ。
俺が死んだ後も二人が生きていけるように、その場所を残さないといけない。
そのためにも、二人のためにも、俺は……自由を捨ててでも商会に戻るべきなのだろうか……? |